私がスタッフとして係わっているアブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)の上賀茂神社でのコンサートまでいよいよあと10日です.
出町柳にあるジャズ喫茶,ラッシュ・ライフ(LUSH LIFE)のマスターが音頭をとって,店に集う常連たち(LUSH LIFE FAMILY)と一緒にほぼ2年おきにランディ・ウェストン(Randy Weston)とアブドゥーラ・イブラヒム(Abdullah Ibrahim)のコンサートを上賀茂神社で行なってきました.
ファミリーの中に,ランディさんやアブドゥーラさんと親交があるスリム・ゲイラード(Slim Gaillard)のマネージャーをしていたジル・メラー(Gillian Meller)さん,上賀茂神社の近くで抜群の京料理でもてなしてくれる料理店さくらいを営む櫻井武清さんが居てくれたことが,コンサートが始められるきっかけとなりました.
初めてのコンサートはランディ・ウェストンでした.まずランディさんの巨大な体躯に驚き(体が大きすぎて膝が鍵盤の高さにある),そしてサウンドに腰を抜かしました.
ランディさんの演奏を聴いたチェンバリストの中田聖子さんが,「ベーゼンドルファー(Bösendorfer)で大きな音が鳴らせるピアニストはランディさんの他にもいますが,こんなにも美しくサスティーンのあるピアニッシモが鳴らせるピアニストは聴いたことがありません.凄いです.」と言っておられましたが,後年,ベーゼンドルファーの社長から,「どうしても上賀茂神社でのランディさんの演奏が聴きたい.」と連絡があり,オーストリアからコンサートを聴くために来日するということがありました.コンサートのあと,なぜ来日してまで演奏を聴きたかったのかと尋ねました.「ベーゼンドルファーの契約アーチストの中で,彼以上にベーゼンドルファーのポテンシャルが引き出せる演奏者がいないからです.彼は世界一のベーゼンドルファー弾きです.その彼が,ここ(上賀茂神社)での演奏は他のどこでも出来ない特別なものだと言っていると聞き,どうしても聴きたかったのです.素晴らしい演奏でした.」
ランディさんもアブドゥーラさんも,上賀茂神社での演奏は特別なものだと言います.彼らにインスピレーションを与える場の力が世界で最もある場所,それが上賀茂神社だと言います.
“長い間、世界各国、さまざまな場所で演奏してきたが、京都、上賀茂神社での体験は、間違いなく最高のものだ。身も心も清められ、私は完全に音楽に没入する。そしてこのステージを実現してくれる人々の格別の愛と共感、思いやり。彼らの笑顔の中で、私はまるで故郷に帰ったかのような安らぎと感動を覚えるのだ。 − アブドゥーラ・イブラヒム”
アブドゥーラさんのコンサートを初めてやった時のエピソードです.
コンサート中,会場周辺の警備をしていますと鎮守の森の暗闇に気配を感じるのです.恐る恐る近づくと会場から漏れ聞こえる音楽に誘われたカップル達が暗闇で手を繋いで立ち聴きをしているのです.月明かりの下,信じられないほど美しく,強く深く優しい音楽が秋の気配とともに聴こえる.そりゃ聴きたいと思うでしょう.その人達を,心を鬼にして追い払うのですが,雨後の筍のように次から次へそういう人達が現れるのです.
こんなこともありました.アブドゥーラさんのコンサートのあと,余韻に浸りながら大阪まで歩いて帰ったというお客さんがいました.車とか電車とかに乗るのではなくてどうしても歩きながら帰りたいと思ったそうです.
私は音楽に限らず,料理でも,踊りでも何でもそうですが,表現をするということは力だと思っています.世の中には圧倒的な力を持つ表現者がいます.好きか嫌いは別にして,心底凄いと思わせる力を持った表現者です.アブドゥーラ・イブラヒム,ランディ・ウェストンはそういう表現者です.
もしあなたが表現の世界にいる人間であれば,上賀茂神社でのアブドゥーラ・イブラヒムのコンサートは絶対に聴くべきです.聴かなければ絶対に損をします.
チケット代は7千円です.私たちは利益を得ることを目的としていないため,満席にして黒字になる価格設定です.値段を下げるために,御年80歳の世界的な音楽家であるアブドゥーラさんに安い飛行機を使ってもらうなど,あり得ない協力をしてもらっています.
上賀茂神社で私たちがやってきたコンサートは,スタッフの高齢化もあり,今回の式年遷宮奉祝コンサートでピリオドを打ちます.ですから,上賀茂神社でのアブドゥーラ・イブラヒムの演奏が聴けるのは今回が最後です.1人でも多くの方に聴いて欲しいです.
私を信じて騙されたと思って聴きに来てください.騙すことがない絶対の自信があります.
チケットの購入は,私を知っている方は私に声をかけていただければご用意いたします.京都市内にお住まいの方は,叡山電鉄・出町柳駅前のジャズ喫茶「ラッシュ・ライフ(LUSH LIFE)」で買い求められるのが便利です.遠方の方は通販で買っていただくことが出来ます.詳しくはラッシュ・ライフのホーム・ページをご覧ください.
賀茂別雷神社 第42回式年遷宮奉祝
アブドゥーラ・イブラヒム ソロ・ピアノ・コンサート
会場:賀茂別雷神社(上賀茂神社)“庁ノ舎”(重要文化財)
日時:2015年10月10日(土)・11日(日)
開場 17時/開演 18時/終演 21時(予定)
料金:7,000円 (税込)<両日とも前売のみ>
コンサートのご案内とチケットの購入方法
http://www.lushlife.jp/topics/topics.html
コンサートのチラシ(PDF)
http://www.lushlife.jp/topics/abdullah_chirashi.pdf
会場への交通案内(PDF)
http://www.lushlife.jp/topics/access2015.pdf
コンサート当日,キングインターナショナルのご協力でCDの販売をいたします。
http://www.kinginternational.co.jp/
アブドゥーラさんの最新作「Song Is My Story」について,大変素晴らしいレコード評がありました.ぜひ,ご一読ください.
心揺さぶる魂のソロピアノ。アブドゥーラ・イブラヒムその生涯と美しき音楽に迫る – HMV ONLINE
http://www.hmv.co.jp/news/article/1412240020/
追記:喋りすぎたら怒られるやろうけど……
前回のアブドゥーラさんのコンサートの時の話です.
休憩時間にピアニスト達が集まって話し込んでいるので,どんな話をしているのかと聞きに行ったら,アブドゥーラさんのペダル・ワークがとんでもないという話題.私はピアノを弾かないのでよくはわからないのですが,とんでもなく細かい微妙なペダル・ワークで音をコントロールしているそうです.日本人のジャズ・ピアニストでここまで出来る人はいないとのこと.
この話はばらしたら本当に怒られるかもしれないのですが…….
実は今回のコンサートでアブドゥーラさんは,イタリアのファツィオリ(FAZIOLI)のピアノを久連松良澄さんの調律で使いたいというリクエストでした.しかし久連松さんはスタインウェイ(Steinway & Sons)の調律師であるため,業界の不文律でファツィオリのピアノを調律することが出来ません.そのことをアブドゥーラさんに伝えたところ,久連松さんの調律でなければダメだということでスタインウェイを使うことになりました.
私は初めてアブドゥーラさんを上賀茂神社に招いた時のことを思い出します.リハーサルで久連松さんが調律したピアノを弾いたアブドゥーラさんが,「パーフェクト.いつ南アフリカに来る?」と久連松さんに言いました.それからというもの,アブドゥーラさんは久連松さんの顔を見る度に,「南アフリカに来い.南アフリカに来い.」と言うのです.それくらい久連松さんの調律に惚れ込んでいるのです.
上賀茂神社のコンサートでは,スタインウェイは松尾楽器商会の久連松良澄さん,ベーゼンドルファーはB-tech Japanの菊池和明さんという関西が世界に誇る調律師が協力してくれています.
調律の現場でお二人から聞いた調律に関する面白い話もあるのですが,それはもったいないので書かないでおきます.飲ませてくれたら喋ります(笑)
さておき,調律師を志している人にもぜひ聴きに来て欲しいです.
聴き比べたらわかるはずなんですが……
キース・ジャレット(Keith Jarrett)のソロ・ピアノの代表作,ザ・ケルン・コンサート(The Köln Concert)は,アブドゥーラ・イブラヒム(当時はダラー・ブランド)のアフリカン・ピアノ(African Piano)の影響を非常に受けています.アブドゥーラさんのアフリカン・ピアノがなければザ・ケルン・コンサートは生まれなかったと言っても過言ではないと思います.アフリカン・ピアノが発表された後のキース・ジャレットのソロ・ピアノの諸作,フェイシング・ユー(Facing You),ソロ・コンサート(Solo Concerts:Bremen and Lausanne),ザ・ケルン・コンサートを順に聴いてみてください.ECMがザ・ケルン・コンサートで大儲けをしたあとに,アフリカン・ピアノの販売権を得て販売した裏には,そういう事情というか音楽の神様への贖罪の念があったのではないかと私は思っています.
というわけで,キース・ジャレットが大好きな方にも聴きに来て欲しいです.